ビデオゲーム小売のゲームストップ株が短期間で大きく値動きし、空売りを行っていたヘッジファンドが大きな損失を被ったと話題になりました。
運用力を武器に多額の利益を上げているヘッジファンドにやり返したいという個人投資家が連携して買いに回ったことがその背景です。
ヘッジファンド業界全体がダメージを受けたかのような記事も散見されますが、実際にはどれほどのヘッジファンドがダメージを受けたのでしょうか。
ヘッジファンドは四半期に一度「Form 13F」で保有残高を報告することが義務付けられています。現時点で確認できる最新の報告書から調べていきます。
ゲームストップ株の急騰で痛手を負ったヘッジファンド
今回の騒動で最もダメージを受けたのは、メルビン・キャピタルという運用会社のヘッジファンドです。1月の運用成績はマイナス53%になったとブルームバーグが報じました。
メルビン・キャピタルの13Fによると昨年9月末時点でおよそ5,500万ドルのショートポジションを取っており、これが急激に値上がりしたことから大幅なマイナスとなりました。
メルビン・キャピタルとは
メルビン・キャピタルとは、元SACキャピタルの有名トレーダーが2014年に立ち上げたヘッジファンドです。2015年に年率47%、2017年に41%のリターンを上げるなど優れた実績を持ち、運用残高は約120億ドルに上ります。
前身であるSACキャピタルは10年以上に渡りインサイダー情報を利用して不正な利益を上げていたことから米証券取引委員会に提訴され、巨額の賠償金を支払ったという過去があります。
直近で高いパフォーマンスを残していることもあり、こういった背景から個人投資家の標的となったと考えられます。
今回の騒動による損失の影響により、投資家による資金の引き上げは避けられないでしょう。悪いことを行った天罰ということもできるかもしれません。
では、ヘッジファンド全体ではどのような影響があったのでしょうか?
ゲームストップ株に投資していたヘッジファンド
13Fを見ると、2020年9月末時点で約40ファンドがゲームストップ株に投資していました。そのうち10万ドル以上の空売りのポジションを取っていたのは5社で、ほとんどのファンドはロング(買い持ち)で投資していたようです。
ポジション別に金額の大きい順に並べると下表のようになります。ロングポジションのヘッジファンドは数が多いため、上位10ファンドを表示しています。
空売りを行っていた6ファンドはダメージを受けましたが、ロングポジションを取っていたヘッジファンドはゲームストップ株の値上がりにより大きな恩恵を受けました。
金額で比較すると買ポジションは売ポジションの約2倍に上ります。
痛手を負ったヘッジファンドも確かに存在しますが、それ以上に利益を得たヘッジファンドが多いというのが実情です。
ゲームストップ株の急騰に乗り遅れた個人投資家
ヘッジファンドをターゲットとした今回のゲームストップ株騒動ですが、急騰する株価に惹かれて高値で購入してしまった個人投資家も多いようです。
SBI証券の公表する「ジュニアNISA 週間買付ランキング」では、1月25日~29日の一週間でゲームストップ株が7位にランクインしました。
直近の値動きは下記のようになっており、1月25日~29日に投資した方の大半が含み損になってしまっている状態です。
上手く売り抜けた投資家もいると思われますが、マネーゲームに巻き込まれたことでヘッジファンドだけでなく個人投資家も損失を出してしまったといえます。
まとめ
個人投資家の「ヘッジファンドにやり返したい」という目的は一部達成されましたが、ヘッジファンド全体で見たらゲームストップ株の急騰により利益を得たファンドの方が多かったことが実態です。
一時的なブームに乗り遅れて損失を被った個人投資家も多く、「個人投資家VSヘッジファンド」という構図で考えると個人投資家の勝ちとは言い切れない結果となりました。
ヘッジファンドは空売りを利用することで相場に関わらず絶対リターンを追求することが可能ですが、基本的にはロング(買い持ち)ポジションを多く取って運用しているファンドが多いです。
空売りを積極的に行うヘッジファンドに投資する場合は今後こういった騒動に巻き込まれて一時的に大きな損失となってしまうリスクもありますが、業界全体では少数派と言えます。ヘッジファンドは運用方法によってリスクが異なるため、リスク要因を理解し自分に合ったヘッジファンドに投資することが重要です。
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