株式ロング・ショート戦略は少ない人数で運用可能なため新規に立ち上げるヘッジファンドも採りやすい戦略とご紹介しました。今回は、一転して大手の実績あるヘッジファンドのみが採用できる運用戦略「グローバルマクロ戦略」を解説していきます。
グローバルマクロ戦略とは、経済指標を用いてマクロ経済の動向を予測し、株式から債券・コモディティなどグローバルのあらゆる市場・商品を対象にロング・ショートを織り交ぜて投資する投資戦略です。
投資対象は流動性の高いものを中心としており、メディアにも多く取り上げられるため有名ファンドも多くあります。レイ・ダリオ率いる世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターアソシエイツのピュアアルファⅡファンドや、ジョージ・ソロスのクオンタムファンドなどが代表的なところです。
具体的なファンド名は出せませんが、あるグローバルマクロ戦略のヘッジファンドのパフォーマンスは下のようになります。
2010年から2019年末までの約10年間で6.5倍に値上がりし、S&P500指数を圧倒的にアウトパフォームしています。価格変動(リスク)は大きいですが、長期的に高いリターンを残しているファンドです。
次に、このようなパフォーマンスを残すことができるグローバルマクロ戦略の運用方法についてご説明します。
グローバルマクロ戦略の運用方法
グローバルマクロ戦略は「トップダウン型」といわれる運用が主流です。個別企業を1つ1つ調査して積み上げていくボトムダウン型とは異なり、経済指標の結果や今後の世界情勢・金利・為替などを予測してポジションを構築することが一般的です。
株式ロング・ショート戦略は株式のみでの運用でしたが、グローバルマクロ戦略は株式に限らず世界中のあらゆる資産で運用します。より大胆に、ダイナミックに動くことが可能な戦略です。もしコロナショックを事前に予測できていたとしたら、下図のようなポジションを構築したでしょう。
簡略化した例ですが、グローバルマクロ戦略はこのようなイメージになります。投資判断については、コンピュータを用いたデータ分析とファンドマネジャーの定性分析を合わせて行う方法が一般的なようです。具体的な判断基準はファンドごとに千差万別で、当然ながら秘密にされています。
グローバルマクロ戦略を用いる著名なファンドマネジャー、ジョージ・ソロスの伝説となった取引をご紹介します。
プラザ合意で2億3000万ドル稼いだジョージ・ソロス
1980年代、アメリカは貿易赤字が拡大していました。それにも関わらず、この時期に米ドルは値上がりしていたのです。貿易赤字=米ドルの需要が少ないため、米ドルは安くなるのが自然です。
「米ドルは適正価格からかけ離れた水準である」そう判断したソロスは、米ドルは暴落すると判断しました。ファンドの全資産で円・ポンド・ドイツマルクといった主要通貨を保有する大きな賭けを行いました。
そして1985年9月、ニューヨークのプラザホテルで会議が行われ、先進国がドル高是正の介入を行うことが合意されました。ソロスは一晩で3,000万ドルの利益をあげたと言われています。その後もソロスは米ドルのショートポジションと円・マルクのロングポジションを構築し、その年の12月までで2億3,000万ドルの利益をあげました。
グローバルマクロ戦略の特徴
- 大手にのみ許された戦略
世界中のあらゆる資産を投資対象とするため、アナリストなど多くの人員が必要な戦略といえます。新興ヘッジファンドの参入は難しく、運用実績を残して生き残ってきたヘッジファンドのみ採用できる戦略です。
- わかりにくい側面も
投資対象が多岐にわたるため、パフォーマンスの評価に手間がかかります。全体のパフォーマンスを分解して、利益を出したセクターや損失になってしまったセクターを分析する必要があります。
- 規模が大きいため影響も大きい
1997年に起きたアジア通貨危機は、過大評価されたアジアの通貨に対してヘッジファンド等の機関投資家が空売りを仕掛けたことが原因の一つだったと言われています。元々のドルペッグ制と外貨準備高の不足が最大の要因ではあるのですが、グローバルマクロ戦略のヘッジファンドも大きくショートポジションを取っていたと言われています。
グローバルマクロ戦略の現状
イーベストメント社の調査では、2020年5月末時点のグローバルマクロ戦略ヘッジファンドの運用残高は約1,740億ドルと全体のおよそ5.7%を占めています。バークレイヘッジ・マクロインデックスのパフォーマンスは3月までのマイナスをすでに取り返し年初来プラスに転換しています。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 年初来 |
0.42% | -1.26% | -3.24% | 3.47% | 1.27% | 0.45% | 0.99% |
おわりに
グローバルマクロ戦略は、世界中に投資するダイナミズムが魅力的な戦略です。同じ相場でもファンドによってポジションが全く異なるということがよくあり、ファンドマネジャーの裁量で大きく結果が変わることもあるのが面白いところです。有名なヘッジファンドが多く、メディアへの露出も多いためファンドマネジャーを身近に感じられる戦略でもあります。