「債券は株式よりリスクが低い代わりに、リターンも低い」
多くの投資家が常識としていることです。しかし、ヘッジファンドの認識は異なります。
個人投資家にとって債券とは、「毎年決まった利息を受け取る長期保有の資産」という認識が一般的ですが、ヘッジファンドは全く違った方法で債券を用いた運用を行っています。その結果として株式を上回るリターンを残しているファンドも多く存在します。
ある債券リラティブバリュー戦略ファンドは、10年間で4.3倍の値上がりを見せています。価格変動は低く抑え、リターンは世界株式の1.6倍と圧倒的な実績のヘッジファンドです。
今回は、ヘッジファンドの一大投資戦略「債券リラティブバリュー戦略」について解説します。
ヘッジファンドと個人投資家の債券投資の違い
証券会社で販売される、最も個人投資家にとってメジャーな債券の例としては以下になります。
発行体 | A社(東証一部上場) |
格付け | A-(JCR) |
期間 | 5年 |
利率 | 0.32% |
高格付けの企業が円建てで発行した社債は、マイナス金利環境下の日本ではこの程度の利率しか付きません。外貨建てであれば表面上の利率は増しますが、長期に渡って為替リスクを負うことになります。
高利回りにつられてトルコリラやブラジルレアルといった財政赤字国の通貨建て債券を購入してしまったが、利回り以上に円高になってしまい後悔しているという話もよく耳にします。
債券リラティブバリュー戦略を用いるヘッジファンドでは、債券を全く異なる角度から評価します。毎年利息を受け取るものではなく、売買する対象であるため「債券の適正価格に対して割安かどうか」の評価を行います。適正価格より割安な債券は買い、割高な債券は売ることで両面から利益を狙うことができるのです。
債券には様々な種類があり、適正価格の算出方法も多岐にわたります。ヘッジファンドが行っている分析手法として、代表的な2つの手法をご紹介します。
債券リラティブバリュー戦略の運用手法
- イールドスプレッド戦略
債券の利回りと償還期間との相関を表すグラフをイールドカーブといいます。基本的には期間が長いほど利回りも高くなるという関係になります。
一時的にイールドカーブに出現する歪みを捉え、将来の形状の変化を予測することで債券の適正価格を算出する方法です。経済はもちろん、政策や国際情勢も考慮した分析が行われます。
- クレジットスプレッド戦略
格付けの低い債券は、信用力というリスクを上乗せするため高格付けの債券に比べて利回りが高く、価格は安くなります。この信用(クレジット)を用いる手法がクレジットスプレッド戦略です。
信用度の高い債券を売り、低い債券を買うことでクレジットスプレッドの収縮を狙います。
債券リラティブバリュー戦略の特徴
債券市場の参加者は機関投資家などのプロ投資家が多く、値動きや価格の歪みは大きくありません。小さな歪みからリターンを得る必要があるため、レバレッジ比率は他の戦略に比べ高くなる傾向があります。
そのため、過去のレバレッジ比率の推移などを見定める必要があるといえるでしょう。短期でのリターンが高くても、リスクの高い運用を行っているファンドもあります。10年以上実績のあるヘッジファンドを選ぶことが賢明ではないでしょうか。
債券リラティブバリュー戦略の現状
イーベストメント社の調査では、2020年5月末時点の債券リラティブバリュー戦略ヘッジファンドの運用残高は約2,226億ドルと全体のおよそ7.3%を占めています。
バークレイヘッジ・債券リラティブバリューインデックスのパフォーマンスは以下の通りで、3月の下落幅の小ささと年初来プラス5.67%というパフォーマンスが目を引きます。コロナウイルスに伴うクレジットの引き下げやリスクオフの流れにより、価格の歪みが増大したことが好調なパフォーマンスに繋がっているようです。
おわりに
一口に債券といっても、その種類は国債からハイイールド債、モーゲージ債など多種多様に及びます。ファンドにより投資対象やリスクコントロールの方法は異なります。
かつてはサブプライムローンにより格付けの低い不動産担保証券の暴騰が起こり、リーマンショックの原因となりました。映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のテーマにもなっていますが、リーマンショック時さえも不自然な歪みを発見しショートポジションを取ることで莫大な利益を上げたファンドマネジャーが複数存在しています。
過去の実績から、自分に合った優秀なファンドを選んで投資することが良い運用につながるのではないでしょうか。