FRB(米連邦準備制度理事会)は、2021年11月にテーパリングを開始しました。テーパリングは株式や債券の価格に大きな影響を与えるので、マーケットでも注目されています。この記事ではテーパリングの意味と、過去の株価や債券価格の値動きについて解説します。
テーパリングとは
taperは「先細り」を意味する英単語で、テーパリング(Tapering)は次第に先が細くなっていくことです。そして、金融の世界では、QE(量的緩和)の縮小を意味します。
量的緩和(QE)とは、政策金利が実質ゼロで、これ以上引き下げの余地がない場合にとられる金融緩和策です。量的緩和では、中央銀行が国債や住宅ローン担保証券(MBS)などリスクの高い金融資産を直接購入し、市場への資金供給を増やして経済を活性化させることを目的としています。
一方、テーパリングとは、量的緩和策による金融資産の買い入れを順次縮小していくことです。「出口戦略」とも呼ばれ、雇用統計などで一定の改善が見られたら量的緩和策を縮小することを示す用語で使われます。
米国で2012年9月から実施されていた「QE3」では、7回にわたってテーパリングを行い、資産買い入れ額をそれまでの月850億ドルから毎月100億ドルずつ減らしました。
FRBの使命は、「雇用の最大化」と「物価の安定」です。そして、米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融政策の方向性を決定します。FRBは景気が悪くなるとアクセルを踏んで「金融緩和」し、景気が良くなるとブレーキを踏んで「金融引き締め」をするのです。
2020年3月にコロナショックが起こり、米国市場は大幅に下落。FRBは政策金利をそれまでの1.75%からほぼ0%に引き下げました。金利を下げることで、企業の資金調達をしやすくしたのです。
通常の不況であれば、この利下げで十分でしたが、コロナ禍という異常事態に対処するためには、もう一段のアクセルが必要でした。
しかし、金利はこれ以上下げられないので、FRBはマネーサプライを増やす「量的緩和」を行いました。FRBは2020年3月から4月までの2カ月間で2兆ドル(230兆円)もの資産を増やしました。その後も毎月1200億ドルのペースで国債やMBS(不動産担保証券)を購入し、市場に資金を供給してきたのです。
FRBは2021年11月にテーパリングを開始
FRBは毎月1,200億ドル(約14兆円)もの米国債などを購入して大量の資金を供給してきましたが、景気が回復に向かうと、2021年11月にテーパリングを開始し、徐々に購入量を減らしていったのです。
2021年12月15日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では、当初の計画からテーパリングを加速し、米国債を購入する量的緩和を2022年3月に終了することを決定しました。
また、ゼロ金利政策を解除し、2022年に利上げを再開することを示唆しました。
テーパリングを決めるのに重要な経済指標
FRBが金融政策を決めるのに重視しているのが、「米物価動向(PCEデフレーター)」と「米雇用統計」です。それぞれの内容について解説します。
米物価動向(PCEデフレーター)とは
米物価動向(PCEデフレーター)は、米商務省が毎月末に発表する、個人消費の物価動向を示す指標です。個人消費支出のデフレーターであり、名目PCEを実質PCEで割って算出します。デフレーターの語源は、「しぼませる」「風船のように膨らんだものから空気を抜く」という意味です。
PCEデフレーターから食品とエネルギーを除いた「PCEコアデフレーター」は、FRBの最も重要な物価指数として知られています。
消費者物価指数(CPI)も同じような指標ですが、PCEデフレーターの方がより広い範囲の物価を対象としているため、実際の物価動向を反映していると考えられているからです。
米雇用統計とは
米雇用統計は、米国労働省が毎月発表する経済指標で、米国の雇用情勢を調べるものです。全米の企業や政府機関を対象にサンプル調査を行い、失業率、非農業部門雇用者数、建設業従事者、製造業従事者など10以上の統計を発表しています。
雇用情勢の変化は個人消費や個人所得に関係し、また今後の景気動向にも大きな影響を与えるので、注目度の高い経済指標です。
とくに、これらの統計の中でも「失業率」と「非農業部門雇用者数」は関心が高く、FOMC(連邦公開市場委員会)の金融政策決定に大きな影響を与えるといわれています。
経済の正常化によって「非常事態」から「平時」へ
大規模な金融緩和と景気刺激策の効果もあり、2020年半ば以降、景気は回復基調にあります。失業率は4%台まで低下し、NYダウやS&P500種株価指数などの主要指標も史上最高値を更新する中、FRBでは危機対応としての役割は終わりつつあるのではないかという見方が強まっていました。
FRBは毎月1,200億ドルも資産を買い増していたので、市場に流通するお金も毎月1,200億ドルずつ増えていました。そこで、2021年11月2~3日に開催されたFOMCで、11月から毎月150億ドルずつ資産買い入れ額を減らしていく方針の「テーパリング」が正式に決定されたのです。
ただ、テーパリングは、「金融引き締め」ではありません。ブレーキをかけるというより、これまで強く踏んでいたアクセルを徐々に弱めていくというイメージになります。
過去の「テーパー・タントラム」の悪夢
2013年5月、当時のバーナンキFRB議長が「雇用市場の改善が続き持続可能であると確信できれば、今後数回の会合で資産買い入れを減らすことができる」と発言すると、世界中で株価が急落。株式市場も不安定になりました。これを「テーパー・タントラム(taper tantrum)」といいます。
テーパー・タントラムとは、「テーパー(taper=次第に少なくなる)」と「タントラム(tantrum=かんしゃく」を組み合わせた造語で、FRBが量的緩和の一環として実施している資産購入の量を「徐々に減らす」ことを警戒し、株式市場で起こった急落のことです。
しかし、現在のパウエルFRB議長は市場に波風を立てないよう、2021年の年明けから慎重に布石を打ってきました。テーパリングの可能性を、時間をかけてマーケットに徐々に織り込ませてきたのです。
ですから、11月のテーパリング開始はすでに市場が織り込み済みで、FRBがテーパリング開始を決定しても、市場に波乱は起きませんでした。
テーパリングで株価や金利はどうなる?
今回(2021年11月)のテーパリングでは大きな影響はありませんでしたが、2022年3月からFRBは政策金利を引き上げました。
米連邦準備理事会(FRB)は3月15~16日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を現行の0.00~0.25%から0.25~0.50%に引き上げることを決定しました。
2020年3月から続いていたゼロ金利政策が解除され、3月には量的緩和策も終了するため、今後は利上げペースや量的引き締めの実施時期が焦点となります。
長期金利の指標となる米10年債利回りは、政策金利引き上げ前には2%前後でしたが、4月になって3%近くまで上昇。金利が上昇すると、企業はお金を借りにくくなり、企業収益が縮小する傾向にあります。その結果、株価は下がりやすくなるのです。
今後も金利上昇が続くようだと、株式市場は上値の重い展開が続く可能性があるので、注意が必要です。
まとめ
2022年はこれまでの金融緩和から金融引き締めに移る局面で、株式や為替市場のボラティリティ(変動率)は高まっています。テーパリングから利上げ局面となり、これまでの金融緩和の時代と物色対象も変わるので、注意が必要です。