ヘッジファンドにより、投資する資産クラスは様々です。株式や債券といった単一の資産クラスでのみ運用するファンドもあれば、グローバルマクロ戦略のように世界中のあらゆる資産を投資対象とするファンドも存在します。
運用の多様性がヘッジファンドの魅力ですが、今回は転換社債で運用するヘッジファンドの戦略を解説します。
転換社債って何?という方も多いと思いますので、まずは転換社債について見ていきましょう。
転換社債とは
「一定の条件で株式に転換できる社債」のことを転換社債といいます。通常の社債と同じように
・定期的な利息
・満期まで保有すれば額面金額で償還
といった特徴を持ちながら、
・発行時に決められた値段(転換価額)で社債を株式に転換することができる
というオプションが付いています。その分通常の債券よりも利息は低いですが、市場で売買することも出来、価格は転換先の株式によって上下します。
英語でConvertible Bond と言うことから、今後は転換社債のことをCBと呼びます。
具体例を見てみましょう。例えば転換価額1000円のCBの場合、株価によって状況は下記のようになります。
株価 | 転換社債の状況 |
1000円 | 適正価格 |
500円 | 債券として保有(株式に転換するより市場で購入する方が安い) |
1500円 | 株式に転換して売却すれば利益になる |
CBの価格と株価の連動性は、株価の水準により異なります。これは、CBの性質が関係しています。
株価 | 転換社債の価格 |
1000円以上 | 株価との連動性は高い |
1000円未満 | 株価より値下がりは抑えられる |
1000円の転換価額以上の水準では、株価とCBの価格連動性は高くなります。「いつでも株式に転換することができる」というCBの特徴があるためです。
一方で株価が1000円未満で推移する場合、「満期まで保有していれば額面金額で償還する」という債券としての特徴が全面に出てきます。満期時の償還額が確定しているため、それを前提にすれば株価ほどの値下がりは起こりにくいのです。
簡単にまとめると、CBとは「債券と株式の特徴を併せ持ち、株価とある程度連動するが値下がりはしにくい」という特徴があるといえます。
転換社債の価格の決まり方
CBの市場価格は、社債としての価値と株式転換部分の価値を複合して評価されます。転換価額1000円の場合、CB価格の値動きは下図のようになります。
株価上昇時は株式転換価値が上昇により価格上昇、株価下落時は債券価値が意識され価格が一定のラインで保たれます。
特殊な資産のため価格評価は複雑で、株価・発行体の信用・利回り・金利・ボラティリティなど様々な条件により左右されます。本来あるべき理論価格と実際の市場価格のずれが生じたとき、ヘッジファンドが利益を稼ぐチャンスになります。ヘッジファンドの運用手法を見ていきましょう。
ヘッジファンドの行う転換社債運用
ヘッジファンドの行う代表的な投資手法として、割安なCBをロング(買い)しその企業の株式をショート(売る)戦略が挙げられます。このポジションを構築することにより、株価の変動によるリターンは以下のように相殺されます。
株価上昇 | 株価下落 | |
CB(ロング) | ↑ | ↓ |
株式(ショート) | ↓ | ↑ |
株価の上下によってではなく、割安なCBが理論値に近づいた時(=CB価格が上昇した時)に売却して利益を得る方法です。
この手法を取るときにショートポジションを取る株数については、デルタヘッジという考え方を利用することになります。株価変動に対してCBがどの程度値動きするか計算し、同じ損益になるようなポジションを構築します。
転換社債で一躍有名になったファンドマネジャー
転換社債を用いた取引で若くして有名になったのが、シタデル・インベストメンツを率いるケン・グリフィン氏です。
1987年、ハーバード大学在学中に18歳でオプション取引を開始し1990年にはシタデル・インベストメンツの前身となる会社を設立。2000年ごろには31歳で20億ドルを運用するまでになりました。
ファンドマネジャーの年収ランキングでも常連で、ブルームバーグによる2018年のデータではジェームズ・シモンズ氏、レイ・ダリオ氏に次ぐ3位でした。
彼が運用を開始した時は転換社債で運用するヘッジファンドは少なく、価格の歪みが生まれる機会は多く存在したようです。
日本国内でのCB発行額は、以前と比べるとかなり減少しています。
パフォーマンス
転換社債で運用するヘッジファンドのパフォーマンスは、下記のように推移しています。バークレイヘッジ・インデックスのデータから作成しました。
市場が暴落した3月は下落してしまいましたが、年初来のパフォーマンスは6月にプラスに転じており安定的な値動きを継続しています。
おわりに
転換社債で運用するヘッジファンドは、CB市場の縮小により以前と比べると減少傾向にあるようです。理論価格と市場価格の差を見出して収益に結び付けることがヘッジファンドの真髄ですが、グリフィン氏が巨万の富を築いた2000年代と比較するとその機会も減少しているといえるかもしれません。
とはいえ直近のパフォーマンスは高く、安定した値動きをするファンドも多く存在します。新しい投資先として、転換社債も面白いのではないでしょうか。