ヘッジファンドの空売りとは?具体例を解説

空売りを行っていた一部のヘッジファンドが個人投資家によって痛手を負ったというニュースが話題になりました。ヘッジファンドは一般の投資信託と異なり、空売りを大きく利用することができるため下落する資産でもリターンを得ることが魅力ですが、その反面一般の投資信託には無いリスクも存在します。

ヘッジファンドの行う空売りの特徴や、過去の相場変動局面での具体例を解説します。

目次

空売りの仕組み

手元に持っていない資産を「借りて売る」ことを空売りと言います。後から買い戻す必要があるため、価格が下がれば利益となります。

MSCI WORLD INDEX 2006年1月-2011年1月

そのため、現在の価格が割高だと評価できる資産に価格が下落することを予測して空売りを行うことになります。

一般の投資信託は厳しい運用規制があるため空売りに制限がありますが、ヘッジファンドは規制に縛られない自由な運用が可能です。

投資対象の適正価格を分析し、割安な資産は買い、割高な資産は空売りすることでどんな相場でもリターンを狙うことができます。

空売りのメリット

価格が下落する資産でもリターンを上げることができるという点が空売りの最大のメリットです。一般の投資信託は買い持ちが基本のポジションになるため、どんな銘柄に投資していようとコロナショックやリーマンショックのようなあらゆる資産が暴落するような局面では下落を免れることができません。

空売りを行うことができるヘッジファンドであれば、相場に関係なく絶対リターンを追求することが可能になります。

空売りのリスク

メリットがある分、リスクも当然存在します。

空売りのリスクは「損失が無限大になる可能性がある」という点です。買持ちであれば損失は株価の範囲に限定されますが、空売りは株価が上昇すると損失が発生するため、損失の範囲は無限大になります。

株価が1,000円の株式に投資した場合の損失可能性は、下表のようになります。

買持ちでは株価がゼロになっても損失は1,000円に収まりますが、空売りを行っていた場合、株価が10,000円に上昇したら9,000円の損失になってしまいます。

あくまでも理論上の仮定にはなりますが、このようなリスクがある点は注意が必要です。

ゲームストップ株騒動

直近ではゲームストップ株を対象に空売りを行っていたヘッジファンドを標的に個人投資家が一斉に買いを入れ、株価が上昇したことでヘッジファンドが大きな損失を被ったというニュースもありました。実際に損失となってしまったファンドはごくわずかですが、空売りを積極的に行うファンドの場合はこういった騒動に巻き込まれる可能性もあります。

参考記事:

富裕層向け資産運用のすべて
ヘッジファンドは敗北したのか?ゲームストップ株騒動を解説 | 富裕層向け資産運用のすべて ビデオゲーム小売のゲームストップ株が短期間で大きく値動きし、空売りを行っていたヘッジファンドが大きな損失を被ったと話題になりました。 運用力を武器に多額の利益を...

次に、ヘッジファンドが行う空売りを過去の実際の相場から解説します。

アジア通貨危機

1997年にアジアの新興国通貨が暴落したアジア通貨危機は金融不安を引き起こしアジア経済の重荷となりましたが、空売りを行っていたヘッジファンドは巨額の利益を得ました。

※1993年1月-2021年1月

当時の新興国は為替レートを米ドルに連動させるドルペッグ制という仕組みを取っていました。米国のドル高政策に連動して新興国通貨も上昇していきましたが、タイの実体経済は経常赤字が懸念されるような状態でした。

経済状態に反して通貨高が続いたことで、過大評価されているのではないかと考える機関投資家が空売りを始めました。

ヘッジファンドがこぞって空売りを行っていた通貨はタイのバーツでした。

それ以前にタイに大きく投資していた投資銀行などの機関投資家の資金引き揚げと相まって、タイ中央銀行はバーツの為替を維持することができなくなりました。

アジア通貨危機で破綻したヘッジファンド

新興国通貨を空売りすることでリターンを得たヘッジファンドがいる一方、通貨下落は一時的なものと考え、新興国通貨の買いを実行し巨額の損失を出したことで破綻したヘッジファンドも存在します。

LTCMは1994年から運用を開始し順調なリターンを積み重ねていましたが、運用残高が拡大したことで高いレバレッジをかけた運用にシフトしており、アジア通貨危機によって大幅なマイナスを記録したことから資金流出が起き運用を継続することが出来ず、破綻という結果になってしまいました。

リーマンショック

2008年のリーマンショック時にも、空売りで利益を上げたヘッジファンドが多く存在していました。一例として下記のような値動きとなっています。

2008年1月-12月

その一方で、ハイリスク・ハイリターンのヘッジファンドの一部は巨額の損失を出し、破綻するという結果となってしまいました。

当時のヘッジファンドは流動性の低い投資対象(不動産、未上場株式など)であっても現金化までの期限を短く設定しているものが多く、リーマンショックによる大量の売却注文を処理できないといったような問題点が発生しました。

リーマンショック以降、ヘッジファンドは運用方法やリスク等、透明性を高めることで投資家が安心して投資できるような体制づくりを行ってきています。

リーマンショック以降のヘッジファンド業界の変化については、ゆかしメディアの記事「ヘッジファンド業界の変化2020」が参考になります。

まとめ

下落相場でも空売りを行うことでリターンを追求できる点がヘッジファンドの魅力ですが、実際には高リターンを追求するあまりリスクの高すぎる運用を行っているファンドも存在します。

ヘッジファンドに投資する際は運用リスクを把握し、自分の考えに近いヘッジファンドを選ぶことで良い結果が得られやすいのではないでしょうか。

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