世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターの創設者レイ・ダリオ氏が自身のLinkedinで「米中関係と戦争」と題して両国の関係と今後を占っています。
世界トップクラスのファンドマネージャーが米中の行方と今後の世界経済をどう予測しているのでしょうか。抜粋して解説します。
覇権国のサイクル
「覇権国」と呼ばれる国は、大航海時代のオランダから産業革命を主導したイギリス、世界大戦後には米国と200年~300年周期で交代を繰り返してきました。
レイ・ダリオ氏は、米国の覇権もこのサイクルの終盤に差し掛かっていると主張します。
覇権国のサイクルについての詳しい解説はゆかしメディア『レイ・ダリオが予測する世界』に譲りますが、覇権国の交代の際には必ず戦争が契機となっていました。軍事戦争が勃発することは考えにくいですが、貿易戦争や技術戦争となんらかの争いが起こると考えています。
覇権をめぐる争いがどのように進んでいくのか、戦争の種類別に紹介されています。貿易戦争・テクノロジー戦争・資本戦争の3つを抜粋してレイ・ダリオ氏の考えをご紹介します。
貿易戦争
レイ・ダリオ氏は、米中の貿易摩擦は現時点でさほど深刻ではなく、両国にとって互いの力を見るためのテストの意味合いが強いと言います。
共和党と民主党はともに中国に対してタカ派であり、大統領選の結果に関わらず貿易戦争は継続されるでしょう。米国が中国に対して行っている3つの経済的批判として、下記が挙げられます。
1. 政府介入により不公正な市場を助長、国内産業を保護している
2. 企業に政府が指図し、リソースや規制上のサポートを提供している
3. 知的財産を盗用しており、その一部は国が後押ししている
貿易戦争の行方において最も注意すべき点は、中国がレアアースの輸出を止めるなど、片方にとって不可欠な商品を輸出しないような処置が行われた時です。
こういったことが起きると深刻な戦争につながる可能性も高まりますが、起こらなければ通常の経済成長が続くと考えられます。
米中の状況をみると現在はともに依存する部分がありますが、どちらもデカップリングと国内生産の強化にシフトしています。直近の経済成長率や技術の進化を考慮すると、今後5~10年間で中国が米国よりはるかに有利な地位を確保すると予想しています。
テクノロジー戦争
米中ともにテクノロジーセクターの中心的な役割を果たしており、テクノロジー戦争の勝者が軍事戦争や経済戦争に勝つことが予測できるため、テクノロジー分野の行方はより重要になります。
中国は国内中心にサービスを提供し発展してきましたが、半導体チップといった部品は他国に大きく依存しています。米国が有利にあるように見えますが、5Gなど分野によっては中国より遅れています。
米国のハイテク企業の時価総額は中国の約2倍ですが、シェア増加率で比較すると中国の増加スピードの方が速い状態です。
米国の4倍の人口と大量のリソースを用いて、技術革新を進めているようです。
スーパーコンピューターの40%が中国にあり、Eコマースやモバイル決済額は米国より多く、フィンテックでは中国に分があります。
36年前にレイ・ダリオ氏が持ち込んだ安物の電卓に驚いていた国がこれほどのスピードで技術革新を進めるとは誰も想像できなかったことでしょう。
テクノロジー分野は米国に一日の長があり、中国の大きな弱点といえますが、このまま技術開発競争が続いた場合5~10年で中国が米国を逆転すると見ています。
資本戦争
金融システムに関わる資本戦争の主なリスクは、中国にとっては資本から遮断されること、米国にとっては準備通貨の地位を失うことになります。
米国は世界の金融システムに最も大きな影響力を持っており、世界をリードする準備通貨を持っています。
基軸通貨を印刷できることと、それに伴う金融制裁などの運用力が米国の最大の力といっても過言ではありません。逆に考えれば、この権力を失うリスクにさらされているともいえます。
世界の中央銀行が外貨準備高で保有する通貨の割合は、以下のようになります。
各通貨の特徴は下記のようにまとめられています。
①米ドル:世界で広く使われている通貨で最も強い立場にありますが、金利低下と世界各国の債務水準の上昇により、ドルの価値が下落し準備通貨としての魅力が失われてしまう可能性もあります。
②ユーロ:欧州で流通している通貨ですがEUの繋がりは弱く、基軸通貨になれるほど影響力のある通貨ではありません。
③日本円:国際的に広く使われておらず、借金も多く低金利が続いています。日本は先進国として影響力はありますが世界を主導するような立場にはなく、基軸通貨にはなりえません。
④ポンド:英国のファンダメンタルズは比較的弱く、国の経済的・地政学的な重要度は高くありません。
⑤金:法定通貨としての弱点がないため魅力的ですが、総量が限られています。
⑥人民元:世界最大の貿易シェアを持ち、ほかの通貨に対して比較的安定している通貨です。準備通貨としての利点は多く、政府債務や金利の問題点はありません。欠点は広く使用されていないこと、変動相場制ができないこと、資本市場の未整備、世界の投資家の信頼を得ていないことが挙げられます。
米中はともに最大の貿易国でありそれぞれ13%を占めていますが、米ドルが世界貿易金融の50%以上を占めているのに対して人民元はおよそ2%しかシェアがありません。人民元のシェアを増やすのは簡単でしょう。
また、中国は世界のGDPの約19%、株式時価総額の約15%を占めていますがMSCIの資産を見るに投資額はまだまだ少ない状態です。投資が現状に遅れて動いているため、中国市場は過小投資されているといえます。
米国は中国資本市場の発展を遅らせるため、実際に中国市場への投資の削減、ニューヨーク証券取引所から中国企業を除外するといった対策を取り始めています。
これは諸刃の剣といえます。中国市場や上場企業にダメージを与える一方、米国の投資家や証券取引所の競争力を弱め、中国やその他の地域の発展を促すからです。例えば、アリババのフィンテック関連会社であるアントグループは史上最大級である2,500億ドル規模の上場を予定していますが、ニューヨークでの上場は行わず香港と上海で上場するようです。
おわりに
以前から中国への投資に強気で知られるレイ・ダリオ氏ですが、様々な角度から米中関係を分析して中国の優位性を説く内容になっています。人民元や資本市場にはまだまだ問題も多いですが、今後準備通貨や技術開発など様々な場面で変化が加速するでしょう。
今後の中国市場に注目です。