「富裕層はどんな資産運用を行っているのだろうか?」
多くの投資家が興味ある話題だと思います。富裕層は絶対数が少ないことに加え、情報リテラシーが高いためネット上で調べてもあまり情報が集まりません。今回は、運用方法にお悩みの富裕層の方や将来的に富裕層を目指す一般投資家の方に向けて、富裕層の運用について一般投資家の運用と比較しながら解説していきます。
富裕層の運用の特徴
一般投資家は各種ライフイベントや老後資金の準備など資産を殖やすために投資を行いますが、富裕層は資産を殖やす必要がありません。インフレリスクへの備えや、次の世代に遺すための資産を守るための運用がメインになってきます。
また、一般投資家はアクセスできない富裕層限定のサービスを利用することができます。一例をあげると資産運用の相談は銀行・証券会社の窓口やファイナンシャルプランナーに行うことが一般的ですが、富裕層であれば高い知識を持つプライベートバンカーに不動産投資、遺産相続、節税といった総合的な資産運用コンサルティングを依頼することができるのです。
運用できる商品にも違いがあります。資金に余裕があるからこそ、富裕層限定ともいえる多くの選択肢の中から選ぶことが可能になります。その一部をご紹介します。
富裕層限定の投資とは
一般投資家には手の届かない富裕層が行っている運用について、2つ例を用いて紹介します。
投資信託とヘッジファンド
日本では長年、投資信託の短期売買が問題視されてきました。長期投資の文化が根付いておらず、パフォーマンスの良い投資信託はすぐ売られるような販売が横行していたため、優秀なファンドが育ちにくい環境でした。
投資信託は100円から買付可能なものが多いため一般投資家に人気の商品ですが、ヘッジファンドは最低でも20万ドル以上のファンドが多くなっています。これは日々の頻繁な売買を無くし、運用効率の底上げを図るためです。一般投資家からの小口資金を受け入れてしまうと、日々の売買に備えるため運用効率が下がってしまいます。
バークレイ・ヘッジファンド・インデックスの運用残高は、以下のように順調に推移しています。コロナショックで3兆ドルを割り込みましたが解約率は低く抑えられており、足元では残高増加に反転しています。
海外の優秀なファンドへ投資する方法はいくつかありますが、コスト面ではプライベートバンクの投資一任勘定を通じて投資するか、投資助言会社に依頼することが優れています。プライベートバンク(クレディスイス、UBSウェルスマネジメント等)は最低投資金額が2億円や5億円等かなり敷居が高いことが難点です。そこまでの金額は預けたくないという方は、投資助言会社がおすすめです。
「ヘッジファンドを騙り、資金を集めるだけで実際には何の運用もしない」というポンジスキームが一時期問題になりました。ヘッジファンドを選ぶ際には過去の運用実績はもちろん重要ですが、前提として資金の分別管理や信頼できる監査法人の監査を受けているかといった「ヘッジファンドの仕組みを取っているか」の確認が詐欺を見抜く一つのポイントになります。
ファンドラップとSMA
「手軽に国際分散投資ができる」とのうたい文句で人気のファンドラップですが、楽天証券では最低投資金額を1万円に引き下げるなど、敷居が下がり誰でも投資できるようなサービスになっています。残高は以下の通り、国内で10兆円を超えようとしています。
証券会社と投資一任勘定を結ぶことで運用にかかる投資判断や売買を任せることができるファンドラップですが、投資信託の回転売買等を金融庁に指摘され売買手数料を稼ぐことが難しくなった証券会社が安定的なフィー収入を得るために販売を推進しているようです。
ファンドラップと似た性格を持つ富裕層限定のサービスとしてSMA(Separately Managed Account)があります。金額は業者により異なりますが、5,000万円以上や1億円以上が多いようです。
投資一任契約を結ぶ点はファンドラップと同様ですが、手数料率が異なります。ファンドラップは口座管理手数料と保有する投資信託の信託報酬の合計で年率3~4%かかりますが、SMAは概ね1.5~2%程度です。プライベートバンクもSMAを提供しており、そこではヘッジファンドのような証券会社では投資できないような商品にも投資できるようです。
「お金はお金のあるところに寄ってくる」という言葉もありますが、富裕層ほど条件のよい資産で運用を行うことができるようになっています。では、具体的にはどんな業者を利用しているのでしょうか。
富裕層向け金融ビジネスの現在
プライベートバンクの参入や金融庁の規制の強化により、富裕層向け金融ビジネスは近年大きな変化を遂げてきました。販売会社が投資家との利益相反を問題視されたことで投資助言会社のプレゼンスが高まり、金融リテラシーの高い富裕層は自分にとって最適な業者を探すようになってきています。富裕層の金融リテラシーや好みに応じて、選択する金融機関のすみ分けが確認されています。
・実利重視 …投資助言会社から中立的な提案を受け、過去実績の優良なヘッジファンドに運用を任せる(投資家自身が海外ヘッジファンドを選ぶ)
・舶来感重視…外資系プライベートバンキングで投資一任サービスを利用して、運用を全て任せる(会社側が海外ヘッジファンドを選ぶ)
・知名度重視…日経証券会社のラップサービスを利用して、系列運用会社の投資信託を購入する(証券会社側が国内投信を選ぶ)
資産を守る必要のある富裕層は自分で各分野(金融商品、不動産、税制など)の知識を得ることから金融リテラシーが高いことが多く、それぞれの分野で専門家をマネジメントする傾向があります。今後の富裕層向け金融ビジネスは、本当に顧客の利益を考えているビジネスモデルかどうか厳しい審査の目が向けられることになりそうです。
一般投資家の現在
日本では老後の資金不足が懸念される中、家計の金融資産1,850兆円のうち1,000兆円が現預金と、欧米に比べて資産運用に関しては後進国といえます。このような状況を憂慮し、国もつみたてNISAやiDeCoといった資産形成のための制度改革を進めてきました。その結果、20歳代~40歳代のNISA口座の開設数が増加し、買付額も順調に伸びています。
資金運用の必要性が徐々に認識されつつあるといえます。一般投資家の方は、金融リテラシーを高めて限られた商品の中でも効率的に資産形成を行うことで富裕層が行うような資産運用も見えてくるのではないでしょうか。