2022年4月に東証の市場再編がスタートしました。この記事では東証市場再編がTOPIX(東証株価指数)や日経平均株価などの株価指数に与える影響と、今後のスケジュールについて解説します。
東証再編はいつから?
東京証券取引所は、2022年4月4日から新たに3つの市場の取引を開始しました。世界をリードする企業を対象とする「プライム」、日本経済の中核を担う企業を対象とする「スタンダード」、そして新たな挑戦を行う企業を対象とする「グロース」です。
市場再編の大きな目的は、乱立する市場を整理し、各市場の役割を明確にし、企業に求められる規律を高めることです。世界の主要市場を見ると、日本の株式市場は、以下のように米国と中国に時価総額で後れをとっています(2022年3月末時点)。
時価総額 | |
NY証券取引所 | 28兆9907億ドル |
NASDAQ | 24兆358億ドル |
香港 | 7兆5802億ドル |
上海 | 5兆1409億ドル |
東京 | 6兆1476億ドル |
今回の市場再編は、東京証券取引所を企業の成長を促す市場にして、海外からの資金を呼び込むのが狙いなのです。今回の上場基準の改定で注目すべき点は、新規上場と上場維持の基準をほぼ一致させたことです。これまでは、上場維持基準が甘く、上場さえしていれば安泰という状況でしたが、今回の改正では、上場維持基準が大きく見直されました。
プライム上場基準では、取引時価総額が100億円を超えれば上場できますが、株価が下がって時価総額が100億円以下になると、上場維持基準にひっかかります。企業は軽い気持ちで上場できないし、上場後も気を抜くことはできなくなるのです。
- プライム市場の上場維持基準
上場維持基準 | |
株主数 | 800人以上 |
流通株式数 | 2万単位 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 |
流通株式比率 | 35%以上 |
また、2021年6月に、市場再編に伴いコーポレートガバナンス・コードが改正されました。そして、プライム市場に上場する企業に対し、取締役会の3分の1以上を社外取締役で構成することや、国際基準に基づく気候変動リスクの開示などを求めています。
「世界経済をリードする企業の市場」と位置づけられたプライムは、トヨタ自動車など旧東証1部企 業の8割以上にあたる1,839社が移籍しました。また、スタンダードには、旧東証2部、旧ジャスダック・スタンダードから7割を超える1,466社が移行しています。
新設された主な株価指数
4月の市場再編により、新たな株価指数が設定されました。主な指数は、以下の通りです(算出開始日はすべて2022年4月4日)。
構成銘柄 | |
東証プライム市場指数 | 1,839 |
東証スタンダード市場指数 | 1,466 |
東証グロース市場指数 | 466 |
東証スタンダードTOP20指数 | 20 |
東証グロース市場Core指数 | 20 |
また、2022年4月に廃止された指数( 算出最終日は2022年4月4日)は、以下の通りです。
- 東証第二部株価指数
- JASDAQ INDEX
- JASDAQ INDEX(スタンダード)
- JASDAQ INDEX(グロース)
- 東証マザーズCore指数
- JASDAQ-TOP20
など
新指数を算出する一方で、TOPIX(東証株価指数)や日経平均株価、東証マザーズ指数は継続して使用するため、現時点では市場参加者の新指数への注目度はまだ高くはありません。ただ、プライム市場指数が、TOPIXに対してどの程度のパフォーマンス優位性を示すのかがマーケット関係者の関心事になっています。
また、新市場が始まりましたが、現在、市場区分の上場基準を満たさない企業でも、当面、希望市場にとどまることができる「経過措置」が発動されています。この措置については、日本取引所グループが年内に方針を決定すると伝えられています。
TOPIX(東証株価指数)への影響
多くの投資家が気にしているのが、市場再編によるTOPIXへの影響です。機関投資家の多くがTOPIXをベンチマーク(運用指標)にしているからです。
TOPIXの見直し作業は2022年4月4日から開始され、2025年1月に完了する予定です。旧東証1部構成銘柄は、基本的にそのままTOPIXに組み入れられます。ですから、株価への影響は中立です。そして、新たにプライム市場に上場する銘柄は、TOPIXに採用されるので、株価への影響はプラスになります。
ただし、流通株式時価総額100億円未満の銘柄は2022年10月から段階的にウエイトを減らされ、2025年1月最終営業日に除外されます。
もう一つの改革は、2022年4月から6月まで、政策保有株式(持ち合い株)をTOPIXの算出対象から除外することです。変動幅が大きい場合は、7月以降にさらに調整を行う予定です。時価総額トップのトヨタ自動車はTOPIXの構成比率が高い銘柄ですが、持ち合い株が多いため比率は下がる見込みです。
TOPIXの見直しが個別株に与える影響
TOPIXはインデックス運用が徐々に拡大する中で、さまざまな問題点が指摘されていました。規模が小さく、流動性の低い銘柄に影響がでるからです。
TOPIXは、旧東証1部に上場している約2,100社で構成されていました。その中には、市場に出回っている株数が少ない銘柄もあります。それでもインデックス運用のために買わなければならないので、流動性の低い銘柄を大量に買えば、株価は上昇します。
そこで、再編後のTOPIXでは、時価総額100億円以上の銘柄を基準に設定するのです。大量の資金流入に耐えられる銘柄のみで指数を算出します。ですから、プライムだけでなく、スタンダードやグロースなどの上場銘柄も、基準を満たせばTOPIXに採用されるのです。
たとえば、フリマアプリ大手のメルカリは旧東証マザーズに上場していたため、TOPIXに含まれていませんでしたが、時価総額が大きいので、新TOPIXに含まれる可能性があります。
ただし、すべての銘柄が一度に入れ替わると、指標としての継続性が保てなくなります。また、投資信託や年金基金などの投資家が、TOPIXから除外する銘柄を一度に売却した場合、株価の急落につながる可能性があります。
そこで、東証は、市場への影響ができるだけ少ない形で移行を行うことにしたのです。市場再編の前営業日である2022年4月1日付で、TOPIXの構成銘柄は、基準を満たしていなくてもそのまま継続します。その後、除外する銘柄の比率を徐々に下げていき、2025年1月末までに移行を完了する予定です。
日経平均株価への影響
TOPIXと並び、国内の代表的な株価指数である「日経平均株価」はどうなるのでしょうか。日本経済新聞社は、2022年4月の東京証券取引所の市場区分変更に伴い、日経平均株価の算出・選択を東証1部から東証プライム市場へ変更します。ただ、市場再編の実質的な銘柄変更の影響を受けず、これまで通りとほぼ同じ扱いになります。
東証の新指数に投資家は困惑
東京証券取引所が60年ぶりに市場再編を行った後も、日本株は盛り上がりを欠いています。投資家の不満の一つは、「東証プライム市場指数」「スタンダード市場指数」など新しく導入された指数のデータ更新が、リアルタイムでないことです。
日中の動きを把握しにくいだけでなく、先物取引やインデックスファンドの組成も難しく、国内の運用会社からは使いにくいとの声も聞かれます。
東証に新設された「東証プライム市場指数」「東証グロース市場指数」「東証スタンダード市場指数」のデータが取引時間中に表示されず、最初にデータが表示されたのは、午後4時でした。
実はこれらの新指数は、日経平均株価やTOPIXと異なり、毎営業日1回、午後4時に算出される「バッチ式」の指数で、取引時間中のリアルタイムの値動きは配信しないことにしていたのです。
このことは、市場関係者にはあまり知られておらず、混乱が広がりました。多くの投資家が新しい指数に注目していたので、「東京証券取引所(東証)はこれらの指数を普及させるつもりはあるのか」と不満に思う投資家もいました。
株価指数がリアルタイムで配信されないと、インデックスファンドの組成が難しくなります。投資信託の売買申し込みは原則午後3時までですが、指数が低いか高いかわからないと、投資家は売買の判断ができないからです。
まとめ
「東証プライム市場指数」「東証グロース市場指数」などの新指数の算出が開始されましたが、TOPIXや東証マザーズ指数は継続して使用するため、現時点では市場参加者の新指数への注目度はまだ高くありません。
東京証券取引所の市場再編は、海外の投資家などに注目される良い機会になるはずですが、改革に時間がかかりすぎると、関心が失われる可能性もあります。今後は、東証プライム市場指数がTOPIX似対してどれだけ優位なパフォーマンスになるか、そして市場関係者にとって使いやすい指数になるかどうかが課題となりそうです。