ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を考慮した投資として存在感を増しているESG投資。日本でも今年7月に設定されたESGをテーマとした投資信託「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」が8,000億円近くまで残高を拡大するなど一大投資テーマとなっています。
1,300億ドル以上の預かり資産を誇る世界最大のヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」が、2021年からこのESG投資を取り入れたファンドを新たに立ち上げると発表しました。
『ヘッジファンドも活用!ESG投資とは』にまとめている通りESG投資を取り入れるヘッジファンドは珍しくなくなってきていますが、世界最大のヘッジファンドもついにESG投資に乗り出します。
ブリッジウォーターの運用手法
ブリッジウォーターの創業者であるレイダリオ氏はどんな相場にも対応可能な全天候型ポートフォリオを提唱しており、この仕組みをもとにESG投資を行うようです。
全天候型ポートフォリオは下記のような配分で、債券の割合が多いことが特徴的です。
どんな局面でも負けないポートフォリオを目標として、経済を4つの季節(インフレ・デフレ・経済成長・経済下降)に分けそれぞれの局面で理想的なポートフォリオを組み合わせることで作られています。
ブリッジウォーターは創業以来一貫してリスクを抑えた運用を行っています。社内で厳しいリスク基準も設けており、2008年春頃にはリスク基準を超えた一部のポジションを解消することで、リーマンショックの下落に巻き込まれることなく逆に12%のリターンを上げる結果になりました。
当時はレバレッジ比率を高めてハイリスクな運用を行う投資銀行が多く存在していましたが、レイダリオは「レバレッジはロシアンルーレットと同じで、いつか必ず頭に銃弾を食らうことになる」と語っています。安定して長期間運用を継続しているファンドのほとんどは、こういった思想のもと源重なリスク管理を行っています。
誰が投資するか
今回のESG関連ファンドは、ブリッジウォーターとフランスの機関投資家であるリクソー・アセット・マネジメントが協力して立ち上げます。
1,440億ユーロの運用残高のうち約150億ユーロをESG関連資産で管理するリクソーは、過去40年に渡り運用を継続してきた実績を重視しているようです。長期運用が求められる機関投資家にとって、ファンドの継続性は重要な判断材料となります。
リクソー・アセット・マネジメント
この会社は、フランスの大手金融機関であるソシエテ・ジェネラルグループ傘下の資産運用部門を担っています。ヘッジファンド等のオルタナティブ投資やクオンツ運用、指数連動型運用に強みを持ち、欧州ではETF市場のプロバイダーとして存在感を増している投資顧問会社です。
ホームページで「革新的な投資ソリューションの開発」を掲げて時代に求められる投資商品を開発してきたリクソーは、そのノウハウを活かし今回のファンド開発にも貢献したようです。
ESG投資の運用手法とは
一口にESG投資と言っても、様々な運用手法が存在します。
GSIA(Global Sustainable Investment Alliance:世界責任投資ネットワーク)によると、ESG投資は7つの方法に分類できます。
投資手法 | 概要 |
ネガティブ・スクリーニング | ESGの観点で問題のある企業を除外する |
インテグレーション | 通常の投資先決定プロセス(財務指標、ビジネスモデル等)の分析だけでなく、ESG情報もプロセスに組み込む |
エンゲージメント | 議決権行使や対話により、投資先企業にESGへの取り組みを促す |
規範に基づくネガティブ・スクリーニング | 国連グローバル・コンパクト等の国際的な規範に反する企業を除外する |
ポジティブ・スクリーニング | ESG評価の高い企業を投資対象として組み入れる |
テーマ投資 | 持続可能性に関するテーマ(食料・農業・再生エネルギー等)に投資する |
インパクト投資 | 社会・環境問題に関して、マイクロファイナンスや地域開発プロジェクトを通じて直接的な解決を目指す |
戦略別の運用残高はネガティブ・スクリーニングが最も多いですが、テーマ投資やインテグレーションが残高を大きく伸ばしています。
また、世界の資産運用残高にESG投資残高が占める比率は年々上昇しています。欧州は少し落ち着いてきましたが、米国や日本ではまだ十分な拡大余地があります。
世界最大のヘッジファンドがESG投資でどのような運用を行うか、世界中から注目が集まります。