不動産の証券化などで利用されるSPC(特別目的会社)をご存じでしょうか。投資だけでなく、企業経営でも知っておいた方がいい仕組みです。この記事では、SPCの仕組みや種類、メリット・デメリットについて専門家が解説します。
SPCとは
SPCは「Special Purpose Company」の略で、日本語では「特別目的会社」と呼ばれます。通常、会社は利益を追求しますが、SPCでは債券の発行や資金調達、投資家への利益配分を目的として設立されます。
そして、不動産証券化を目的とした「特定目的会社(TMK)」もSPCのひとつです。不動産証券化では、投資家からお金を集め、不動産を所有する時にSPCを利用します。
日本では1998年にSPC法が成立し、SPCを設立できるようになりました。ただ、会社といっても企業の資産を保有する受け皿として機能するだけで、実態はペーパーカンパニーです。
SPC が保有する資産の代表は「不動産」です。たとえば、不動産開発をしたい企業がSPCを設立し、保有不動産をSPCに売却します。その不動産の信用力を担保に金融機関から融資を受けたり、有価証券を発行して投資家から出資を受けたりするのです。
通常、会社で資産を保有していれば、運用のための部門や人が必要であり、資産だけの会社というのは想定されていません。しかし、SPCはペーパーカンパニーであるため、その運用については他の個人や法人が行うことができるのです。
また、不動産の証券化では、不動産の保有を目的とするSPCに不動産を移し、不動産から得られる賃料収入を原資に資金調達を行います。不動産証券化では、土地の担保ではなく、建物や土地が持つ収益力によって資金調達が可能になるのです。
そして、SPCが保有する資産は不動産だけでなく、太陽光発電や売掛金、住宅ローンなどもあります。
SPCのメリット
SPCのメリットは、主に次の2つです。
資金調達が容易になる
SPCを設立すれば、企業本体とは別の会社が不動産などの資産を所有するので、倒産リスクを回避できます。仮に企業本体が倒産しても、SPCに影響がでないようになっているので、投資家からの資金調達が容易になるのです。
財務体質の改善ができる
SPCを設立すれば、企業のバランスシート(貸借対照表)から不動産などの資産を切り離すことができます。高額の不動産などの資産を会社本体から切り離すことで、自己資本比率やROA(総資産利益率)などを改善できるというメリットがあるのです。
SPCのデメリット
SPCのデメリットについても解説します。
手間やコストがかかる
SPCを設立すると、信託銀行や弁護士、会計士、サービサー(債権回収会社)など関係者が多くなり、スキームも複雑なので、通常の不動産取引に比べるとコストがかかります。また、不動産物件の査定でも、建築事務所や鑑定会社などのコストが発生します。
さらに会社法での会社設立は資本金1円ですが、SPCの設立には最低10万円の資本金が必要になります。
SPCの種類
SPCの種類には、以下の3つがあります。
合同会社匿名組合スキーム(GK-TKスキーム)
合同会社匿名組合スキーム(GK-TKスキーム)は、合同会社(GK)と匿名組合(TK)を組み合わせた投資スキームで、主に私募ファンドで利用されます。私募ファンドでは、投資のための箱である SPC が必要で、合同会社匿名組合スキームにおいてSPCに該当するのが合同会社(GK)になります。
ただ、投資家はSPCである合同会社に対して直接出資するのではなく、匿名組合(TK)を通じて出資を行い、合同会社の収益から得られる配当を、匿名組合の出資に応じて受け取るという仕組みになっています。
匿名組合を利用するのは、事業から生じる利益を、二重課税を回避しながら投資家に還元できるからです。同一の所得に対して2度以上課税されることを二重課税といいます。SPC の利益に法人税が課され、法人税を控除した後に分配される配当にも課税されるという二重課税を、匿名組合を利用すれば回避できるのです。
特定目的会社スキーム(TMKスキーム)
「資産の流動化に関する法律」に基づいて特定目的会社(TMK)を設立し、投資家からの優先出資と金融機関からの特定借入や特定社債により、現物不動産または不動産信託受益権を取得して運用します。
特定目的会社は、「TOKUTEI MOKUTEKI KAISHA」から「TMK」と呼ばれているのです。TMKは一定の要件を満たせば配当金損金算入が認められているので、税法上の二重課税を回避できます。
また、監督庁から許可を得れば、金融商品取引業としての登録をせずに誰でも投資家を募集することができます。金融商品取引業の登録のハードルは高いので、これはTMKの大きなメリットです。
不動産投資法人(REIT)スキーム
投資法人・投資信託に関する法律に基づく不動産投資信託(REIT)を設立し、投資家から資金を集めて運用します。不動産投資信託も一定の条件下で配当が損金算入でき、二重課税が回避できる仕組みになっているのです。
GK-TKスキームやTMKスキームは、特定の資産に関して3~5年程度の運用期間で募集することが多いのですが、不動産投資法人スキームでは、運用期間を決めずに長期で運用を行うことが多くなっています。
不動産投資法人スキームでは収益性の高い不動産を長期的に運用するスキームで、不動産の形成や再生事業の出口戦略としても活用できます。
M&AでもSPCの利用が可能
SPCは資産の受け皿なので、不動産だけでなく企業という資産を受けることができます。ですから、企業を売買するM&A(合併・買収)でもSPCの利用が可能です。とくにLBO (レバレッジド・バイアウト)でSPCが利用されます。
LBOは借入金を活用した企業の事業買収のことで、買い手企業が売り手企業のキャッシュフローや資産を担保に買収資金を調達し、そのお金で売り手企業を買います。ですから、買い手企業は少ない資金でM&Aできるのです。
買い手企業は SPC を設立して買収資金を調達。その後、SPCと売り手企業を合併させてM&Aが終了します。このときのSPCは「買収用特別目的会社」と呼ばれます。
LBOの事例~ソフトバンクによるボーダフォンを買収
2006年に、ソフトバンクはボーダフォンの日本法人を買収しました。買収額は1兆7000億円と高額でしたが、そのうち1兆円はLBOによるSPC設立によって資金調達しました。ソフトバンクは多額の債務を負うことになりましたが、ボーダフォンは多くのキャッシュフローを持っていたことと、スマートフォンの普及という時代の流れがプラス要因となり、ソフトバンクのボーダフォン買収は成功を収めたのです。
また、2013年にはSPCをフィンランドに設立し、フィンランドのゲームアプリ会社スーパーセルを子会社化しました。スーパーセルは「クラッシュ・オブ・クラン」などの人気ゲームを抱え、1日当たりのプレーヤーは1億人を超えています。
SPCによる買収額は15億ドル(約1515億円)で、スーパーセルはソフトバンクの連結子会社になったのです。
その後、2016年にソフトバンクはスーパーセルを中国のテンセントに約7700億円で売却しています。それまでのスーパーセルからの配当金とあわせて8000億円以上の利益を得たのです。
まとめ
SPCは不動産や企業などの資産を有効に使える仕組みです。そして、不動産証券化だけでなく、M&Aもしやすくなるというメリットがあり、ヘッジファンドのイベントドリブン戦略などで利用されることもあります。SPCを利用した投資先なども投資対象として検討されてみてはいかがでしょうか?SPCを利用した投資は非常に専門的な投資手法となります。専門家と相談の上、リターンだけでなくリスクも把握したうえでご投資ください。