2022年4月に東京証券取引所の市場再編で「東証プライム市場」ができます。この記事では、東証プライム市場の特徴と、現在の東証一部との違いについて解説します。
東証プライム市場とは
現在は「東証一部」「東証二部」「ジャスダック」「マザーズ」の4つの市場区分ですが、4月4日からは「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つの新市場区分に再編されます。それぞれの市場区分の特徴は、以下の通りです。
プライム市場
グローバルな投資家との対話を重視した企業向けの市場。
スタンダード市場
投資対象として十分なガバナンス(企業統治)水準と流動性を備えた企業向けの市場
グロース市場
高い成長性がある企業向けの市場
現在の市場区分は、2013年に東京証券取引所と大阪証券取引所が株式市場を統合したときに、それぞれの市場構造を維持したことに由来しています。そのため市場区分のコンセプトが曖昧で、投資家の利便性も低いといわれていました。
そのため、新たに3つの市場区分に見直すことにしたのです。現在の東京証券取引所一部には2,185社 が上場していますが、プライム市場には1,841社が上場する予定です。
現在の東証一部には全体の約6割が集中していて、海外の主要市場と比べても企業数が多くなっています。しかし、時価総額を見てみると東京証券取引所の6兆6,727億ドルに対し、ニューヨーク市場29兆9,679億ドル、NASDAQ市場26兆1,532億ドルと、大きく差がついています(2021年末時点)。
これまでの東京証券取引所一部は、株式の流動性の点でも投資しにくい企業が多いとの批判がありました。そこでプライム市場は東京証券取引所1部よりも上場基準を厳しくし、最上位市場としての「質」を高めようとしているのです。
東証一部からプライム市場へ移る基準
東京証券取引所一部からプライム市場へ移る基準は、以下の通りです。
- 株主数 800人以上
- 流通株式数 2万単位以上
- 流通株式時価総額 100億円以上
- 流通株式比率 35%以上
プライム市場は東証一部よりも上場基準が厳しくなります。また、流通株式比率を35%以上にして特定株主の影響力を下げ、多くの投資家が取引しやすいようにするのです。日本は親子上場が多く、親子上場は時価総額に計算するときに重複して計算されるため、問題になっていました。
市場参加者とのズレが大きい
ただ、市場参加者の評判はよくありません。QUICKが2022年2月におこなった調査では、東京証券取引所の市場再編が「実質的に何も変わらない」と回答した証券会社・機関投資家が56%と半数を超えました。また、「グローバルに適用する企業が明確になり、東証の国際化に寄与する」と解答したのは、全体の3%に過ぎませんでした。
プライム市場の基準が未達でも当面の間はプライムに移行できる「経過措置」があるほか、プライム企業の時価総額基準が市場の期待を下回ったからです。4月のスタート時には、経過措置の296社を含め、東証一部の約8割の1,841社がプライム市場に移行します。
プライム市場以外に上場する企業は2割弱にとどまったのです。東証の市場再編には上場基準を厳しくして新陳代謝を促す狙いがありましたが、多くの企業がプライム市場に移行することにより、活性化に向けた課題を残したことになります。
残留努力に向けた期待も
プライム基準を満たしていない「経過措置」の約300社は、基準到達に向けた計画書の提出を条件に例外としてプライム市場に上場します。そうした銘柄には、残留努力に期待した買いも入っています。また、今後はスタンダード市場やグロース市場からプライム市場へ移る企業もあります。。
メルカリは、1月14日にプライム市場への変更申請をしたと発表しました。4月の新市場を発足時には現在のマザーズ市場に対応するグロース市場に移行しますが、プライム市場に上場することで、国内外での知名度向上や海外投資家を呼び込むことが狙いです。
マザーズに上場している企業がプライム市場に移るためには、プライム市場の上場審査を受ける必要があります。最近2年間の利益合計が25億円以上、時価総額250億円以上、売上高が100億円以上かつ時価総額1,000億円以上などの条件があります。
スポーツ用品のデサントは、新市場移行の基準日となる2021年6月末時点で流通株式比率が35%に達していませんでしたが、持ち合い解消を進めることで9月にはクリアしました。また、非財務情報の項目を増やすなどして、今後も取り組みを進めるとしています。
非鉄金属のCKサンエツは1日の平均売買代金が2,000万円以上という基準を満たしていませんでしたが、自社株買いを実施して売買を増やそうとしているのです。
このように現在はプライムの基準を満たしていなくても、将来的にプライム移行の可能性が高い銘柄には、買いが入る傾向にあります。プライム市場に残留を目指す企業やプライムへの移行を目指す企業に対しては株価の上昇が見込めるのです。
TOPIXの改革
プライム市場に上場すると、TOPIX(東証株価指数)に連動するインデックスファンドなどからの買いが見込まれるので、株価が上昇しやすくなります。現在の東証一部の構成銘柄は、そのままTOPIXに採用されます。そして、新たにプライム市場に上場する銘柄はTOPIXに追加されるので、株価にとってプラスの材料になるのです。
現状のTOPIXは東証一部の全銘柄で構成されていますが、市場再編に伴いプライム市場と切り離されます。4月4日からTOPIXの見直し作業が開始されますが、インデックス運用を行っている投資家への影響を考え、新しい基準によって算出するTOPIXへの移行は、2025年1月まで段階的に実施する方針です。
プライム市場では流通時価総額100億円以上の基準を設けているため、その要件を満たさない企業はTOPIXから段階的に外されるのです。指数に連動するインデックスファンドなどを運用している機関投資家が投資対象から外せば売り圧力が強まるので、注意が必要です。
また、日経平均株価を算出・公表している日本経済新聞社は、対象市場を東証一部からプライム市場に変更します。さらに、4月4日からは東証プライム市場指数、東証スタンダード市場指数、東証グローバル市場指数の算出・公表が始まります。
株主優待を廃止する企業が増えている
金券や自社製品を株主に送る株主優待制度を見直す企業が増えています。2021年9月末までの1年間で、株主優待制度を廃止した企業は75社と過去10年で最も多くなりました。理由の一つは、外国人投資家や機関投資家などから株主優待よりも配当を望む声が増えたからです。
外国人投資家や機関投資家は株主優待の活用が難しく、不公平な制度だとの批判が強かったのです。あおぞら銀行は公平な利益還元の観点から配当金を優先するとし、商品券の贈呈をやめました。
また、自動車部品のタチエスや近鉄エクスプレスは、クオカードを配布する制度を廃止しています。さらに、2022年2月にJTが株主優待制度を廃止すると発表しました。JTはこれまでグループ企業の商品などを送っていましたが、2023年の発送を最後に取りやめます。ただし、2022年12月期の年間配当は前期比10円増の150円を計画しています。
株主優待制度が廃止されているもう一つの理由が、東京証券取引所の市場再編です。最上位のプライム市場で必要な株主数は800人以上で、現在の東証一部の2200人以上に比べると条件が緩和されます。
ですから、株主を増やすために株主優待制度を導入していた企業にとっては、優先度が下がるのです。
ただ、1日平均売買代金や流通株式時価総額の基準を満たすために、株主優待制度を導入して個人株主を増やそうと取り組んでいる企業もあります。住江織物やチノーは株主優待制度を新たに導入し、プライム市場の基準を満たすための改善計画を提出しました。
2021年9月末の株主制度の導入社数は1,476社と2年連続で減少しましたが、今後も株主優待制度を廃止する企業が増えるかどうかに注目です。
まとめ
東証プライム市場には、高いガバナンス(企業統治)への取り組みや流動性の向上が求められます。ただ、基準を下回っている企業でも「経過措置」により東証プライム市場に上場できることや、東証一部銘柄の8割が移行することから、海外投資家や機関投資家の評価は高くありません。
最上位市場としての位置づけを投資家に印象づけることができるかどうかが、今後の課題となるでしょう。